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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)1号 決定 1957年2月21日

抗告人 谷山清(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人は、「原審判を取り消す。抗告人の名清を貴由又は季芳と変更することを許可する。」旨の決定を求め、その理由として別紙(省略)抗告理由書のとおり主張した。

よつて按ずるに、本件記録によると、抗告人は原審に、抗告人の名清を起由又は季芳と変更許可の審判を申し立て、その理由として主張したところは、「抗告人は昭和三十一年五月○日谷山貞治、同人妻恵子の養子となり谷山の氏を称することとなつたところ、同部落に同姓同名のものが一人おり、ほかに谷山晴という類似した名のものがあるため、不動産関係を初め日常生活にも種々間違いが生じ易く、今後不便をきたすと考えるので、この際抗告人の名の変更許可審判を求める。」というのであるが、原審は、「申立人主張の事実関係は認めることができる。そうだとすれば、申立人の改名は許可すべき場合に該当するものといわなくてはならない。しかし『起由』と改めるのは困るのである。『起由』という字を音で読めば『きゆ』となり女性の名に似る。『起』を音で読み『由』を訓で読めば、『きよし』となるがそのような読み方は甚だむずかしい。もしある人が自分の名は『起由』というのであるが女性と間違えられて困るという理由で改名許可の審判を求めたとするならば、これは理由のある申立といわなくてはならない。改名はよいが左様の名に改めることは許可することができない。申立人に他に平凡な易しい字を選んで申し立てるように伝えると今度は『季芳』という字を選んで参り、これも『きよし』と読ませるというのである。畢竟申立人は姓名判断の類に凝つて読みにくい名に改めたいと希望しているものと断ぜざるを得ない、以上の次第で申立人の名清を

起由と改めることは許すことができない。」との理由で、抗告人の本件改名許可の申立を却下する旨の審判をしたことが明らかである。

そして本件記録に徴し仔細に検討してみると、右に摘示した原審判の事実認定並びに法律上の判断は正当であつて、何等違法の点は認められない。また坑告人は当審において新たに、『貴由』と改名し、又は『季芳』を『キホー』と呼びたいと主張するが、右主張は、以上の判断に影響を及ぼすものでなく、結局本件は改名についての正当の理由ある場合に当るものと認めることはできない。

よつて抗告人の本件抗告は理由なしとしてこれを棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 浜田潔夫 判事 仁井田秀穂 判事 伊藤顕信)

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